・・・ これ等の男女は、いずれも牧人でした。もうこの地方は暖かで、みんなは畑や田に出て、耕やさなければなりませんでした。一日野良に出て働いて、夕暮になると、みんなは月の下でこうして踊り、その日の疲を忘れるのでありました。 男共は牛や羊を追・・・ 小川未明 「月と海豹」
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・ 私は、蟻の這い廻る老いた幹に頭を靠せ 牧人のように 外気に眼を瞑って 光を吸う。 耀や熱に 魂がとけ 軽々と情景に翔ぶ この思い。 カーテン 若き夫と妻。 明るい六月の電燈の下で チラチラ・・・ 宮本百合子 「心の飛沫」
出典:青空文庫