・・・「僕は、物事を綿密に考えてみたいんだ。納得出来ない祝宴には附和雷同しません。僕は、科学的なんです。」「ちえっ!」佐伯は、たちまち嘲笑した。「自分を科学的という奴は、きまって科学を知らないんだ。科学への、迷信的なあこがれだ。無学者の証拠さ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・すべて物事の根本となる気力。すこやかなること。勢いよきこと。私は考える。自分にいま勢いがあるかどうか。それは神さまにおまかせしなければならぬ領域で、自分にはわからない事だ。お元気ですか、と何気なく問われても、私はそれに対して正確に御返事しよ・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・強く、世間のつきあいは、つきあい、自分は自分と、はっきり区別して置いて、ちゃんちゃん気持よく物事に対応して処理して行くほうがいいのか、または、人に悪く言われても、いつでも自分を失わず、韜晦しないで行くほうがいいのか、どっちがいいのか、わから・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ 見なれた人にはなんでもない物事に対する、これを始めて見た人の幼稚な感想の表現には往々人をして破顔微笑せしめるものがあるのである。 文楽の人形芝居については自分も今まで話にはいろいろ聞かされ、雑誌などでいろいろの人の研究や評論などを・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・て、その結果として物事を理屈で押して行く。フランス人は理屈を詰めて行くのをめんどうくさがって「かん」の翼で飛んで行くのである。 「パリ祭」 このような感じをいっそう深くするものはルネ・クレール最近の作品「七月十四日」・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・どうして、もう少し自然に物事ができないものかと思うのはこの映画ばかりではない。いったいに日本の近代映画の俳優では平均して女優のほうがこういう点で頭がよくて男のほうが劣っているように思われる。女のほうは頭のいいようなのが映画を志す、男の頭のい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 科学者流にしか物事を考えることの出来ないものの眼から見ると以上のような事実だけは認められるが、さて、それが善いのか悪いのか、またそれをどうすればいいか、そういうことは一切分かりかねるのである。 尤も、科学者も人間である以上は、いつ・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・浅草という土地がら、大道具という職業がらには似もつかず、物事が手荒でなく、口のききようも至極穏かであったので、舞台の仕事がすんで、黒い仕事着を渋い好みの着物に着かえ、夏は鼠色の半コート、冬は角袖茶色のコートを襲ねたりすると、実直な商人としか・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・我々は腹の底から物事を深く考え大きく組織して行くと共に、我々の国語をして自ら世界歴史において他に類のない人生観、世界観を表現する特色ある言語たらしめねばならない。本当に物事を考えて真に或物を掴めば、自ら他によって表現することのできない言表が・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・甚だしき遊蕩の沙汰は聞かれざれども、とかく物事の美大を悦び、衣服を美にし、器什を飾り、出るに車馬あり、居るに美宅あり。世間の交際を重んずるの名を以て、附合の機に乗ずれば一擲千金もまた愛しまず。官用にもせよ商用にもせよ、すべて戸外公共の事に忙・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
出典:青空文庫