・・・不利は、物的事情にとどまらず、業者とその気分に雷同する一部の作家間に、もうアプレ・ゲールでもないだろう、と咲きのこりの昼顔でも見るような態度をひきおこした。皮肉なことは、戦後派とよばれた近代文学同人たちの大部分が、前年の下半期から一九四九年・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・近代工業のおどろくべき進歩は、二十世紀に西洋音楽に深く影響して、オネガやストラヴィンスキーその他の音楽家たちが不協和音を摂取するようになったし、文学でも即物的な要素を加えられた。 そのような工場生活者の精神と肉体との組立てに対して、全く・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・黒須千太郎や平尾を筆頭とするその教師らのように、社会の排泄物的存在ではないのだから。二つを、並べて問題にするのは幼稚である、と。 私は、二つのタイプがそれぞれに異ったものであるということに反対しようとはしない。同じ浮浪児・指導者にさえ歴・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・理性の具った人間なら自分が殺さないという事実は一見物的証拠が揃っていてもはっきり自分に分っている。だからその事実に立脚して外部的判断と闘うという風に考えるのは普通人の頭である。木々高太郎氏は、その「理性の方を信頼する」と云う内容を逆に見てい・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・というものを独・物的爾著から重訳して出している。 いずれも当時の進歩的学者であったし、年輩も既に四十歳を越した人々がそれだけ心を合わせて兎に角一つの啓蒙雑誌を発刊したところ、何とも云えぬ明治というものの若々しい力が感じられて、非常に面白・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・従って、戦場の光景はそのものの即物的な現実性で読者の感銘に迫って来るし、一方作者によって絶えず意識され表明されている人間自然の情感というものはその描かれている世界への近接を感じさせる十分の効果をもっていた。この二つの要素が作者火野によって常・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 謹直な教師たちに屈辱感を与えたにちがいないその問題は、しかし、愈物的条件の切迫した来春どんな形で再燃するだろうか。それ迄に、適切な策が立てられることを切望する。新しい文部大臣もそのことは考えられるのだろう。〔一九四〇年六月―七月〕・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・ プロレタリア革命の前駆である民主主義革命の必然性、物的基礎は土地問題にある。土地問題と現在あるがごとき形で今日われわれに残されている封建的絶対主義との闘いにあり、広汎な層をふくみ専制支配に対するあらゆる不満を組織して行われる民主主義獲・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・は即物的な表現のうちに、素朴な唯物的実在の感覚と心理のニュアンスを綯いあわせた、というよりもむしろ配列した頭脳的な作品であった。が、「抒情歌」はその反対に、科学を追いつめて淋しくなった人間の心が、その逆の霊魂のことに慕いよる、というモティー・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・を奪って、戦争宣伝に従わせ、つまりきょうの世代に青春をうしなわせた、その仕事のためにどういう責任をとわれる立場にあるかということを、この人が自由になった日本では用紙割当が内閣に移って、内閣が言論出版の物的基礎を握ってしまったということときり・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
出典:青空文庫