・・・商売道具の衣裳も、よほどせっぱ詰れば染替えをするくらいで、あとは季節季節の変り目ごとに質屋での出し入れで何とかやりくりし、呉服屋に物言うのもはばかるほどであったお蔭で、半年経たぬうちにやっと元の額になったのを機会に、いつまでも二階借りしてい・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・われ、物言うも苦し。二人は相見て笑いぬ、二郎が煙草には火うつされたり。 今宵は月の光を杯に酌みて快く飲まん、思うことを語り尽くして声高く笑いたし、と二郎は心地よげに東の空を仰ぎぬ。われ、こしかた行く末を語らば二夜を重ぬとも尽きざらん、行・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・て羽翼振るうさまの鬱陶しげなる、かの青年は孫屋の縁先に腰かけて静かにこれらをながめそのわきに一人の老翁腕こまねきて煙管をくわえ折り折りかたみに何事をか語りあいては微笑む、すなわちこの老翁は青年が親しく物言う者の一人なり。 水車場を過ぎて・・・ 国木田独歩 「わかれ」
出典:青空文庫