・・・彼は僕よりも三割がた雄の特性を具えていた。ある粉雪の烈しい夜、僕等はカッフェ・パウリスタの隅のテエブルに坐っていた。その頃のカッフェ・パウリスタは中央にグラノフォンが一台あり、白銅を一つ入れさえすれば音楽の聞かれる設備になっていた。その夜も・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・机上に置いて玩味し、黙読し考うるのは、むしろ書物そのものが持つ特性でありましょう。私などどうしても、書物を読んで、それから得た知識でなければ、真に身にならない気がします。一つは雑誌であると、百貨店へ行ったように他へ気が散るからであります。・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・ たとえば、同じ海にしても、北方の海と、南方の海とは、色彩、感覚、特性等から、その人々に与えつゝある影響に至るまで異るのであります。従って、その地方の子供達が海洋に対する空想、憧憬は、決して同じいものではなかったばかりでなく、これに・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・改革の手段に暴力を用いる用いないの点よりも、この人間の特性の貶斥は最も許し難き冒涜である。人間の道徳意識そのものはマルクスによって泥を塗られただけで少しも高められず、退化するのみである。『キリスト教の本質』を書いたフォイエルバッハの人間の共・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・るに、舜は下流社會の人、孝によりて遂に帝位を讓られしが、その事蹟たるや、制度、政治、巡狩、祭祀等、苟も人君が治民に關して成すべき一切の事業は殆どすべて舜の事蹟に附加せられ、且人道中最大なる孝道は、舜の特性として傳へらるゝを見る。即ち知る、舜・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・この少女も、もはや無意識にその特性を体得していやがる、といまいましく思っているうちに、少女は傍のテエブルから、もの憂げに牛乳の瓶を取りあげ、瓶のままで静かに飲みほした。はっと気附いた。病身。あれだ、あの素晴らしいからだの病後の少女だ。ああ、・・・ 太宰治 「美少女」
・・・そのモンタージュは純然たる夢の編成法であり、しかもかなりによく夢の特性をつかんでいる。たとえば月を断ち切る雲が、女の目を切る剃刀を呼び出したり、男の手のひらの傷口から出て来る蟻の群れが、女の腋毛にオーバーラップしたりする。そういう非現実的な・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・おそらくあらゆる猫族の特性を最も顕著に備えた、言わば最も猫らしい猫の中の雌猫らしい雌猫であるかもしれない。実際よくねずみを捕って来た。家の中にはとうからねずみの影は絶えているらしいのに、どこからか大小いろいろのねずみをくわえて来た。しかし必・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・のエネルギー分布の統計的形式によって、いろいろな不規律放射像の不規則さの様式特性が定まると考えられる、言わば規則正しい像は単線スペクトルに当たり、不規則なのは一種の連続スペクトルあるいは帯状スペクトルに当たるのである。こう考えると、形が不規・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 気候の変化が人間の生理にも若干の影響があるかもしれないとすると、それが胎児の特異性に多少の効果を印銘することが全然ないとも限らないし、そうなると生まれ年の干支とその人の特性とが、少なくもある期間については多少の相関を示す場合がないとも・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫