・・・人の話によるとなかなかよく日本人の特性をうがっていて、むしろ日本人の美点を表現しているそうですが、タケラモに恐れてまだ見ません。 ベルリンから 今度の旅行中は天気の悪い日が多くて、ことにスイスでは雨や霧のためにア・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・なんだかドイツ人の群集の中で英国人のある特性そのものが嘲笑の目的物になっているような気がした。そしてその特性は自分もあまり好かないものであるのにかかわらず、この時はなんだか聴衆の悪じゃれを不愉快に感じた。それでもやっぱりおかしい事はおかしか・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・九州人と東北人と比べると各個人の個性を超越するとしてもその上にそれぞれの地方的特性の支配が歴然と認められる。それで九州人の自然観や東北人の自然観といったようなものもそれぞれ立派に存立しうるわけである。しかし、ここでは、それらの地方的特性を総・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・従順な特性は消えてしまって、野獣の本性があまりに明白に表われるのである。 蚊帳自身かあるいは蚊帳越しに見える人影が、猫には何か恐ろしいものに見えるのかもしれない。あるいは蚊帳の中の青ずんだ光が、森の月光に獲物をもとめて歩いた遠い祖先の本・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・は一つの不思議な特性をもっていた。自分が風呂場へはいる時によくいっしょにくっついて来る。そして自分が裸になるのを見てそこに脱ぎすてた着物の上にあがって前足を交互にあげて足踏みをする、のみならず、その爪で着物を引っかきまたもむような挙動をする・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・複雑な特性を簡単に纏める学者の手際と脳力とには敬服しながらも一方においてその迂濶を惜まなければならないような事が彼らの下した定義を見るとよくあります。その弊所をごく分りやすく一口に御話すれば生きたものを故と四角四面の棺の中へ入れてことさらに・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ なお余論として以上二種の文芸の特性についてちょっと比較してみますと、浪漫派は人の気を引立てるような感激性の分子に富んでいるには違ないが、どうも現世現在を飛び離れているの憾みを免かれない。妄りに理想界の出来事を点綴したような傾があるかも・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・それからこの知を割り、情を割り、その作用の特性によってまたいろいろに識別して行きます。この方面は主として心理学者と云うものが専門として担任しているから、これらの人に聞くのが一番わかりやすい。もっとも心理学者のやる事は心の作用を分解して抽象し・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 技術的に諷刺的表現の或る自由さを身につけた頃、小熊さんや私の属していた文学の団体は解かれて、その前後の時代的な社会と文学との波瀾の間で小熊さんの諷刺性は、周囲の刺激に対して鋭く反応せずにいられない特性とともに、何処となく諷刺一般におちい・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・これは、日本が近代工業国として持っている歴史的な独特性である。故細井和喜蔵氏によって著わされた「女工哀史」はそういう特性をもった日本の若い無抵抗な労働婦人が、ある時代に経なければならなかった生活記録として、世界的な意味をもつ古典なのである。・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
出典:青空文庫