・・・彼の犀利の眼光はこのときすでに禅宗の遁世と、浄土の俗悪との弊を見ぬき、鎌倉の権力政治の害毒を洞察していた。二十一歳のときすでに法然の念仏を破折した「戒体即身成仏義」を書いた。 その年転じて叡山に遊び、ここを中心として南都、高野、天王・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・彼の人間に対する態度は博愛的人道的のものであるらしい。彼の犀利な眼にはおそらく人間のあらゆる偏見や痴愚が眼につき過ぎて困るだろうという事は想像するに難くない。稀に彼の口から洩れる辛辣な諧謔は明らかにそれを語るものである。弱点を見破る眼力はニ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・官衙や商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に対しても犀利な批評と痛切な助言を加えたい。 これらのあらゆる探究摘発批評の動機が純粋に好意的のものでありたい。不備に対して当事者を攻撃し誹謗する事よりもむしろ当事者の味方になり、そうして一・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・今日の一般人はいろいろと苦しい思いの中で文化への希望を失わず生きようと努力しているのであるから、現実の事象の理解についても、おのずから犀利なるものを求めているのである。〔一九三七年八月〕・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫