・・・「全世界の人悉くこの願を有ていないでも宜しい、僕独りこの願を追います、僕がこの願を追うたが為めにその為めに強盗罪を犯すに至ても僕は悔いない、殺人、放火、何でも関いません、もし鬼ありて僕に保証するに、爾の妻を与えよ我これを姦せん爾の子を与・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・金銭の罪を犯す人の身のまわりには、きっとこんなたちの女が坐っているのだろうと思いました。 奇妙な事には、この女はあれほど私の詩の仲間を糞味噌に悪く言い、殊にも仲間で一番若い浅草のペラゴロの詩人、といってもまだ詩集の一つも出していないほん・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・墺匈国では高利貸しが厳禁せられている。犯すと重い刑に処せられる。そこで名義さえ附くと好い。ボスニア産のプリュウンであろうが、機関車であろうが、レンブラントの名画であろうが、それを大金で買って、気に入らないから、直ぐに廉価に売るには、何の差支・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ しかしまたこの事から、とんぼの止まっているときの体向は太陽の方位には無関係であるという結論を下したとしたら、それはまた第二の早合点という錯誤を犯すことになるであろう。この点を確かめるには、実験室内でできるだけ気流をならしておいて、その・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・その際に、もしかこれが旧劇だと、例えば河内山宗俊のごとく慌てて仰山らしく高頬のほくろを平手で隠したりするような甚だ拙劣な、友達なら注意してやりたいと思うような挙動不審を犯すのであるが、ここはさすがに新劇であるだけに、そういう気の利かない失策・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・しかし私がもしそういう罪を犯す危険が少しもないくらいであったら、私はおそらくルクレチウスの一巻を塵溜の中に投げ込んでしまったであろう。そうしてこの紹介のごときものに筆を執る機会は生涯来なかったであろう。 ルクレチウスの atom. ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・例えば女の天性妊娠するの約束なるが故に妊娠中は斯く/\の摂生す可しと、特に女子に限りて教訓するが如きは至極尤に聞ゆれども、男女共に犯す可らざる不徳を書並べ、男女共に守る可き徳義を示して、女ばかりを責るとは可笑しからずや。犬の人にかみつきて却・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これすなわち学者をして随意に書を読ましめ、国典を犯すに非ざれば咎めざるゆえんなり。また、文学をもって政治を籠絡すべからず。これすなわち学者に兵馬の権を仮さずして、みだりに国政を是非せしめず、罪を犯すものは国律をもってこれを罰するゆえんなり。・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・その言にいわく、近来我が国の子弟は、その品行ようやく軽薄におもむき、父兄の言を用いず、長老の警をかえりみず、はなはだしきは弱冠の身をもって国家の政治を談じ、ややもすれば上を犯すの気風あるが如し。ひっきょう、学校の教育不完全にして徳育を忘れた・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 例えば私有の権というが如きは、戸外において最も大切なる箇条にして、これを犯すものは不徳のみならず、冷淡無情なる法律においても深く咎むる所なれども、一歩を引いて家の内に入れば甚だ寛かにして、夫婦親子の間に私有を争うものも少なし。家の内に・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫