・・・と朱書きした大きな状袋から取り出して、「この契約書によると、成墾引継ぎのうえは全地積の三分の一をお礼としてあなたのほうに差し上げることになってるのですが……それがここに認めてある百二十七町四段歩なにがし……これだけの坪敷になるのだが、そ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・よくよく見ているとその中のある物は状袋のたばを束ねてある帯紙らしかった。またある物は巻煙草の朝日の包紙の一片らしかった。マッチのペーパーや広告の散らし紙や、女の子のおもちゃにするおすべ紙や、あらゆるそう云った色刷のどれかを想い出させるような・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・しかしA村の甥がK市の姉すなわち彼の伯母のために状袋のあて名を書いてやったという事もずいぶん可能で蓋然であるように思われた。しかしふたつの手跡は似ていると言いながら全く同じであるとは考えにくい点もないではなかった。 もう一つのわからない・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・せめて状袋にでも入れて「正岡子規自筆根岸地図」とでも誌しておかないと自分が死んだあとでは、紙屑になってしまうだろうと思う。 こんな事を書いていたら、急に三十年来行ったことのない鶯横町へ行ってみたくなった。日曜の午後に谷中へ行ってみる・・・ 寺田寅彦 「子規自筆の根岸地図」
・・・の上を見ると、薄紫色の状袋の四隅を一分ばかり濃い菫色に染めた封書がある。我輩に来た返事に違いない。こんな表の状袋を用るくらいでは少々我輩の手に合わん高等下宿だなと思ながら「ナイフ」で開封すると、「御問合せの件に付申上候。この家はレデーの所有・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・貝の火兄弟商会の、鼻の赤いその支配人は、ねずみ色の状袋を、上着の内衣嚢から出した。「そうかね。」大学士は別段気にもとめず、手を延ばして状袋をさらい、自分の衣嚢に投げこんだ。「では何分とも、よろしくお願いい・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫