・・・「……ぶるぶる寒いから、煮燗で、一杯のみながら、息もつかずに、幾口か鶫を噛って、ああ、おいしいと一息して、焚火にしがみついたのが、すっと立つと、案内についた土地の猟師が二人、きゃッと言った――その何なんですよ、芸妓の口が血だらけになって・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・そこには、猟師の平作が住んでいました。「平作――早く出ろ、おおかみがきたぞ!」と、おじいさんはどなりました。 平作は、銃を持って、家の外に走り出ました。そして、おじいさんの振り向く方を見て、「あれか。」といって、黒いものをねらって打・・・ 小川未明 「おおかみをだましたおじいさん」
・・・だれか、打ちそこなったのだなと思っていると、そこへ猟師がやってきました。「いまごろ、おまえさんは、なにを釣っていなさるんだい。」と、猟師はききまました。「なんということはなしに、釣っているのです。」と、下男は答えました。「こんな・・・ 小川未明 「北の国のはなし」
・・・ ある日のこと、猟師たちが、幾そうかの小舟に乗って沖へ出ていきました。真っ青な北海の水色は、ちょうど藍を流したように、冷たくて、美しかったのであります。 磯辺には、岩にぶつかって波がみごとに砕けては、水銀の珠を飛ばすように、散ってい・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・「私どもは貧乏で、お客さまにおきせする夜具もふとんもないのでございますが、せがれが猟師なもので、今夜は、どこか山の小舎で泊まりますから、どうぞそのふとんの中へ入ってお休みくださいまし。」と、二人はしんせつに、なにからなにまで、およぶかぎ・・・ 小川未明 「宝石商」
村に一人の猟師が、住んでいました。もう、秋もなかばのことでありました。ある日知らない男がたずねてきて、「私は、旅の薬屋でありますが、くまのいがほしくてやってきました。きけば、あなたは、たいそう鉄砲の名人であるということですが、ひと・・・ 小川未明 「猟師と薬屋の話」
・・・一同はこの松の下に休息して、なの字浦の方から来るはずになっていた猟師の一組を待ち合わせていた。 朝日が日向灘から昇ってつの字崎の半面は紅霞につつまれた。茫々たる海の極は遠く太平洋の水と連なりて水平線上は雲一つ見えない、また四国地が波の上・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・背後は一帯の山つづきで、ちょうどその峰通りは西山梨との郡堺になっているほどであるから、もちろん樵夫や猟師でさえ踏み越さぬ位の仕方の無い勾配の急な地で、さて前はというと、北から南へと流れている笛吹川の低地を越してのその対岸もまた山々の連続であ・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・わしだって、若い頃には、ラプンツェルに決して負けない綺麗な娘だったが、旅の猟師に可愛がられラプンツェルを産んで、わしの母から死ぬか、生きていたいかと訊ねられ、わしは何としても生きていたかったから、生かして置いてくれとたのんだら、母は、まじな・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・天性の猟師が獲物をねらっている瞬間に経験する機微な享楽も、樵夫が大木を倒す時に味わう一種の本能満足も、これと類似の点がないとはいわれない。 しかし科学者と芸術家の生命とするところは創作である。他人の芸術の模倣は自分の芸術でないと同様に、・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
出典:青空文庫