・・・で、いずれの方面からも許されて、その旦那の紳士ばかりは、猟期、禁制の、時と、場所を問わず、学問のためとして、任意に、得意の猟銃の打金をカチンと打ち、生きた的に向って、ピタリと照準する事が出来る。 時に、その年は、獲ものでなしに、巣の白鷺・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・間へ入って腰を掛けた、中でも、脊のひょろりと高い、色の白い美童だが、疳の虫のせいであろう、……優しい眉と、細い目の、ぴりぴりと昆虫の触角のごとく絶えず動くのが、何の級に属するか分らない、折って畳んだ、猟銃の赤なめしの袋に包んだのを肩に斜に掛・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ というよりはやく、弾装したる猟銃を、戦きながら差向けつ。 矢や銃弾も中らばこそ、轟然一射、銃声の、雲を破りて響くと同時に、尉官は苦と叫ぶと見えし、お通が髷を両手に掴みて、両々動かざるもの十分時、ひとしく地上に重り伏せしが、一束の黒・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・私と向い合うと、立掛けてあった鉄砲――あれは何とかいう猟銃さ――それを縦に取って、真鍮の蓋を、コツコツ開けたり、はめたりする。長い髪の毛を一振振りながら、ニヤリと笑って、と云ってね。袋から、血だらけな頬白を、――そういって、今度は銃を横へ向・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・古い猟銃を持ち出して、散弾をこめた。引鉄を握りしめると、銃声がして、畝にたかっていた鳩は空中に小気味よく弧を描いて、畠の上に落ちた。 しかし、すぐ、駐在所から、銃声を聞きつけた奴がとび出してきた。鉄砲の持主をセンサクした。だが、米吉はど・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
・・・ 彼は内地でたび/\鹿狩に行ったことがあった。猟銃をうつことにはなれていた。歩兵銃で射的をうつには、落ちついて、ゆっくりねらいをきめてから発射するのだが、猟にはそういう暇がなかった。相手が命がけで逃走している動物である。突差にねらいをき・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ 野鴨の剥製やら、鹿の角やら、いたちの毛皮に飾られて、十数挺の猟銃が黒い銃身を鈍く光らせて、飾り窓の下に沈んで横になっていた。拳銃もある。私には皆わかるのだ。人生が、このような黒い銃身の光と、じかに結びつくなどは、ふだんはとても考えられぬこ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・父の猟銃でのど笛を射って、即死した。傷口が、石榴のようにわれていた。 さちよは、ひとり残った。父の実家が、さちよの一身と財産の保護を、引き受けた。女学校の寮から出て、また父の実家に舞いもどって、とたんに、さちよは豹変していた。 十七・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ 荷物を出す番になって赤帽がまるで少ない。みんな順ぐりだ。人気ないプラットフォームの上に立って車掌がおろした荷物の番をしている。足の先に覚えがなくなった。 ――寒いですね。 猟銃を肩にかけて皮帽子をかぶった男が、やっぱり荷物の山・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・は、ブジョンヌイの第一騎兵隊の噂をきき、猟銃をかつぎ黒パンを入れた袋をかついで次から次へと集って来た。 広大なソヴェト同盟内の各地方ソヴェトは、南方でも、シベリアでも勇敢な農民パルチザンと赤衛軍との血でうちたてられたのであった。 一・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫