・・・御一新の御東幸の時にも、三井の献金は三万両だったが八兵衛は五万両を献上した。またどういう仔細があったか知らぬが、維新の際に七十万両の古金銀を石の蓋匣に入れて地中に埋蔵したそうだ。八兵衛の富力はこういう事実から推しても大抵想像される。その割合・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・金があって苦しければ、そっくり国家へ献金すれば良いのだ。じたばたするのは、臆病だ。――おれはもう黙って見ていられなかった。いや、ますます黙したのだ。 おれはお前を金持ちにしてやるために、随分かげになり、日向になり権謀術策も用いて来たが、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・建艦運動の献金欄に松野一江という名がつつましく出ているのを見つけたのである。松野一江というのはその娘さんの名であった。礼吉はなにか清潔な印象を受け、ほっとして雪の日の見合のことを想い出した。・・・ 織田作之助 「妻の名」
・・・軍部がその部落に二百円の強制献金を割り当てた。自作農らはついに共同墓地の松の木を伐ってそれを出すことに決議したが、昭和二年の鉱山閉鎖以来共同植付苅入れをしている「やま連」と呼ばれる農村の集団的な労働者がそれをきっかけに、未組織のK部落におけ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・戦争中、人民から集めた国防献金は七億円あまった。それは、今どこに管理されている。日婦が、一応解散したとき一億円だかの財産があった。それも、どこかの役所にしまいこまれている。 失業者は二月下旬に五百八十三万人と云われた。これは、日本の失業・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・さもなくて、どうしてすべての若い女を勤労動員し、すべての学徒の、文科学生だけを前線にかり出すことが出来たろう。献金、献金、供出、供出と強要できたろう。八月十五日が来たとき、日本じゅうに灰色の煙をたててそれらの血ぬられた統計は焼却された。・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・の一つがX嬢その他数人の献金によって数年来経営されて来た。ところが最近ロンドンに疲れた女が殖え、よく繁昌する。一日退職軍人その他から成る委員が集った。そして決議した。「当院が今日の如く隆盛におもむいた以上さらに有料寝台を増して、その利益配当・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫