・・・んの姉の倅の嫁の里の分家の次男の里でも、昔から世話になった主人の倅が持っている水車小屋へ、どうとかしたところが、その病院の会計の叔父の妹がどうとかしたから、見合わせてそのじいの倅の友だちの叔父の神田の猿楽町に錠前なおしの家へどうとかしたとか・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・ 秋の末に帰京すると、留守中の来訪者の名刺の中に意外にも長谷川辰之助の名を発見してあたかも酸を懐うて梅実を見る如くに歓喜し、その翌々日の夕方初めて二葉亭を猿楽町に訪問した。 丁度日が暮れて間もなくであった。座敷の縁側を通り過ぎて陰気・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・十四五年前の事であるが、余は猿楽町の下宿にいた頃に同宿の友達が急病で死んでしまった。東京には其男の親類というものが無いので、我々朋友が集まって葬ってやった事がある。其時にも棺をつめるのに何を用いるかと聞いてみたら、東京では普通に樒の葉なども・・・ 正岡子規 「死後」
・・・おい車屋、今度は猿楽町だ。」「や、お目出とう御座います。留守ですか。そうですか。なるほどこういう内ですか。」「まアあんさんちょっとお上りやす。」「いいえ急いでいますから……私の書生の頃この隣の下宿屋にいたのですが、もう十四、五年も前のこ・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・心敬は猿楽の世阿弥を無双不思議とほめているが、我々から見ても無双不思議である。能楽が今でも日本文化の一つの代表的な産物として世界に提供し得られるものであるとすれば、その内の少なからぬ部分の創作者である世阿弥は、世界的な作家として認められなく・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫