・・・以外の人間には時々我慢の出来ない玄人の臭味と浅薄さとを嫌うからである。併し、目指す方向は正しくても、舞台を踏んで遣りこなす教養がどうしても足りないので不具になる。近頃、女優劇と云えば、既に或る程度の水準が定められ、喧しくがみがみ云わない代り・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ あのひと、このひと、と実際の場合について考えて見ると、仕事らしい仕事をしている女のひとは、結局みなそれぞれの技術で、万一のときは十分やって行けるところまで達している、つまり玄人であるということに気付くのです。 私は、ここに人間の本・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・単に「感覚の玄人」として、世界観の飛躍を試みたに過なかった。 日本でジイドは、実に驚くべき過重評価をうけたのであるが、且て二十年近い昔、「狭き門」「背徳者」などが翻訳出版された時文学愛好者がアンドレ・ジイドなる名に払った注意は決して甚大・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・営利の目やすから、荷風のところへ、封鎖ですが、と長篇をたのむ玄人はいない。 それこれ考えていたらば、この間、労働科学研究所から、一枚のアンケートが送られて来た。それは珍しい作家の労働調査のアンケートである。 その中に創作活動を有利に・・・ 宮本百合子 「作家への新風」
・・・従って当時の大衆は、玄人の書いた作品を買って読む文学の消費者として存在していなかった。文学の生れる広い、深い歴史的な地盤としてあったから、大衆の中からの文学的萌芽というものは実に盛んに芽生えた。今日も、文学作品は非常な売行きを見せているが、・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 素人の女が玄人っぽいまねをするという近頃の一部の傾向も、その機会にあたっているのである。 婦人と読書 相変らず本がよく売れている。女のひとも本をよけい読むようになったのは嬉しい。 けれども、本をよむ婦・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・これらの本は、文学では生産文学、素材主義の文学が現れて生活の実感のとぼしさで人々の心に飢渇を感じさせはじめた時、玄人のこしらえものよりも、素人の真実な生活からの記録がほしいという気持から、女子供の文章の真率の美がやや感傷的に評価されはじめた・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・これまでは、刺繍だの金銀泥が好きなだけつかえて、染料の不足もなかったから、玄人とすればいろいろ技法を補い誇張する手段があった。ところが、統制になって、そういう補助の手段が減って来たために、専門家は愈々純粋の染色技術で行かなければならなくなっ・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・夫人の現在の悲劇は恐らく玄人仲間でそれをありのまま彼女に告げるものがないであろう彼女の地位にある。 あの頃と今日『文芸』の八月号に除村吉太郎氏を中心に現在のソヴェト同盟の文学と作家生活とを語る座談会記事がある。・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・文学よりも音楽は技術が特殊で、それは素人と玄人との差別をあんまりきっちり分けるから。 絵画の問題も仲々むずかしい。日本画は、そのもっている制約から今日の人民の生活の複雑な感情をうつし出すに困難であるし、洋画は文学のように誰でも新聞小説を・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
出典:青空文庫