・・・は、十六世紀の初期に当って、ファディラの率いるアラビアの騎兵が、エルヴァンの市を陥れた時に、その陣中に現れて、Allah akubarの祈祷を、ファディラと共にしたと云う事が書いてある。すでに彼は、「東方」にさえ、その足跡を止めている。大名・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・…… 年増分が先へ立ったが、いずれも日蔭を便るので、捩れた洗濯もののように、その濡れるほどの汗に、裾も振もよれよれになりながら、妙に一列に列を造った体は、率いるものがあって、一からげに、縄尻でも取っていそうで、浅間しいまであわれに見える・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・利休以外にも英俊は存在したが、少は差があっても、皆大体においては利休と相呼応し相追随した人であって、利休は衆星の中に月の如く輝き、群魚を率いる先頭魚となって悠然としていたのである。秀吉が利休を寵用したのはさすが秀吉である。足利氏の時にも相阿・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・情熱は女を生かし、みちびき、何物かを創造する力となるけれど、一方またそれを抑え、制御し、率いるだけの意志とか理性とかいうものは殊に女にとっては必要ではないかしら、情熱のために生活全体の破滅を来たすとはおそろしい事ね。 そうね、こうして自・・・ 宮本百合子 「久野さんの死」
・・・は得られないのであるが、ひとたび大将がこの明を得れば、彼の率いる武士団は、強剛不壊のものになってくる。ということは、道義的性格の尊重が彼の武士団を支配するということなのである。この書のねらっている武士の理想は、道徳的にすぐれた人物となるとい・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・がこの初期のガンダーラの美術は、三世紀の中ごろクシャーナ王朝の滅亡とともにいったん中絶し、一世紀余を経て、四世紀の末葉にキダーラの率いるクシャーナ族がガンダーラ地方に勢力を得るに及んで、今度は塑像を主とする美術として再興し、初期よりずっと優・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫