・・・だちの奥さん、京千代さんは、半玉の時分、それはいけずの、いたずらでね、なかの妹は、お人形をあつかえばって、屏風を立てて、友染の掻巻でおねんねさせたり、枕を二つならべたり、だったけれど、京千代と来たら、玉乗りに凝ってるから、片端から、姉様も殿・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ こういうことを思い浮べながら、玉乗りのあった前を通っていると吾妻橋の近処に住んでいる友人に会った。「どこへ行くんだ?」「散歩だ」「遠いところまで来たもんだ、な」「なアに、意味もなく来たんだ」「どッかで飲もう」という・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・公園裏にて下り小路を入れば人の往来織るがごとく、壮士芝居あれば娘手踊あり、軽業カッポレ浪花踊、評判の江川の玉乗りにタッタ三銭を惜しみたまわぬ方々に満たされて囃子の音ただ八ヶまし。猿に餌をやるどれほど面白きか知らず。魚釣幾度か釣り損ねてようや・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
出典:青空文庫