・・・「オルムスの大会で王侯の威武に屈しなかったルーテルの胆は喰いたく思わない、彼が十九歳の時学友アレキシスの雷死を眼前に視て死そのものの秘義に驚いたその心こそ僕の欲するところであります。「勝手に驚けと言われました綿貫君は。勝手に驚けとは・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・「やりましょうとも。王侯貴人の像をイジくるよりか、それはわが党の『加と男』のために、じゃアない、ためにじゃアない、「加と男」をだ、……をだをだ、……。だから承知しましたよ。承知の助だ。加と公の半身像なんぞ、目をつぶってもできる。これは面・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・あきらめじゃない。王侯のよろこびだよ」ぐっと甘酒を呑みほしてから、だしぬけに碾茶の茶碗を私の方へのべてよこした。「この茶碗に書いてある文字、――白馬驕不行。よせばいいのに。てれくさくてかなわん。君にゆずろう。僕が浅草の骨董屋から高い金を出し・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・私たちは芸術家だ。王侯といえども恐れない。金銭もまたわれらに於いて木葉の如く軽い。 太宰治 「ロマネスク」
・・・後者のままごと式の野営生活もたしかに愉快でもありまたいろいろな意味で有益ではあろうが、しかし、前者の体験する三昧の境地はおそらく王侯といえども味わう機会の少ないものであって、ただ人類の知恵のために重い責任を負うて無我な真剣な努力に精進する人・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ついで、芸術家としての名建築家が、王侯貴族たちの名声と権力と金の力とをつくしてその腕を発揮しました。近代社会の経済機構が基礎をかためてからは、資本が、建築のすべての条件を決定するようになりました。建築家は自身のどんな想像力を具体化することが・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
・・・すなわち民族全体は、最も小さい子供から最も年長の老人に至るまで、その身ぶり、動作、礼儀などに、自明のこととして明白な差別や品位や優美などを現わしていた。王侯や富者の家族においても、従者や奴隷の家族においても、その点は同じであった。 フロ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫