・・・どあらゆる種類の伝説と童話とが酵母となって、彼女の生活のどこの隅々にまでも、渾然と漲りわたっていた果もない夢幻的空想は、今ようようその気まぐれな精力と、奇怪な光彩とを失い、小さい宝杖を持ち宝冠を戴いた王様や女王様、箒に乗って月に飛ぶ鼻まがり・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ どんな偉い王様も、獣も皆溺れるのにノアだけ生きて広い世界中を旅行すると云う事は何と云う幸な事であろう。 若しお叔父ちゃんの話す様に神様は偉いなら、お願いさえすればきっと自分もノアにして下さるだろうと云う事を思わない訳には行かなかっ・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ 一体お相手はどこの王様なんでございますの。 若しお国そとに居る裸で真黒な顔をして居ると云う話の野蛮人となら私はかてるにきまって居ると信じて居りますわ。 そのきたない人間達は鉄の鎧なんか持って居りますまいもの。 ねえ貴方、ほ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・「天の王様……」 今に玩具が現れるだろうと、ゴーリキイは思った。ゴーリキイは写真をとられたことがないと同時に、玩具というものは持ったことがなかった。玩具なんか軽蔑していたが、それは表向きで、玩具をもっているものを見ればやっぱり羨しかった・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 頭に鳥毛飾りの帽子をかぶり、錦のマンテルを着た人は、王様の使者でなくて誰でしょう。 風邪をひいた七面鳥のような蒼い顔になったお婆さんに、使者は恭々しく礼をして云いました。「お婆さん、ちっとも驚くことはありません。私共は王様の姫・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
出典:青空文庫