・・・(使の兎の耳を玩弄もっとこっちへいらっしゃい。何だかわたしはあなたのためなら、死んでも好いような気がしますよ。 使 (小町を抱ほんとうですか? 小町 ほんとうならば? 使 こうするのです。(接吻 小町 いけません。 使・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・日あたりの納戸に据えた枕蚊帳の蒼き中に、昼の蛍の光なく、すやすやと寐入っているが、可愛らしさは四辺にこぼれた、畳も、縁も、手遊、玩弄物。 犬張子が横に寝て、起上り小法師のころりと坐った、縁台に、はりもの板を斜めにして、添乳の衣紋も繕わず・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ さて、笛吹――は、これも町で買った楊弓仕立の竹に、雀が針がねを伝って、嘴の鈴を、チン、カラカラカラカラカラ、チン、カラカラと飛ぶ玩弄品を、膝について、鼻の下の伸びた顔でいる。……いや、愚に返った事は――もし踊があれなりに続いて、下り坂・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・爺や、ただ玩弄にするんだから。」「それならば可うごすが。」 爺は手桶を提げいたり。「何でもこうその水ン中へうつして見るとの、はっきりと影の映るやつは食べられますで、茸の影がぼんやりするのは毒がありますじゃ。覚えておかっしゃい。」・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・もう三十を幾つも越した年紀ごろから思うと、小児の土産にする玩弄品らしい、粗末な手提を――大事そうに持っている。はきものも、襦袢も、素足も、櫛巻も、紋着も、何となくちぐはぐな処へ、色白そうなのが濃い化粧、口の大きく見えるまで濡々と紅をさして、・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・……この雛はちと大金のものゆえに、進上は申されぬ――お邪魔でなくばその玩弄品は。」と、確と祖母に向って、道具屋が言ってくれた。が、しかし、その時のは綺麗な姉さんでも小母さんでもない。不精髯の胡麻塩の親仁であった。と、ばけものは、人の慾に憑い・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・……同じ事を、絶えず休まずに繰返して、この玩弄物を売るのであるが、玉章もなし口上もなしで、ツンとしたように黙っているので。 霧の中に笑の虹が、溌と渡った時も、独り莞爾ともせず、傍目も触らず、同じようにフッと吹く。 カタリと転がる。・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・款があっても淡島椿岳が如何なる画人であるかを知るものは極めて少なく、縦令名を知っていても芸術的価値を認むるものが更にいよいよ少ないのだから、円福寺に限らず、ドコにあっても椿岳の画は粗末に扱われて児供の翫弄となり鼠の巣となって亡びてしまったの・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・美妙斎や紅葉の書斎のゴタクサ書籍を積重ねた中に変梃な画や翫弄物を列べたと反して、余りに簡単過ぎていた。 風采は私の想像と余りに違わなかった。沈毅な容貌に釣合う錆のある声で、極めて重々しく一語々々を腹の底から搾り出すように話した。口の先き・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・と指環を玩弄にしながら光代は言う。 そうだ。そうあるべきことだ。と綱雄は一打ち煙管を払く。その音も善平の耳に障りて、笑ましき顔も少し打ち曇りしが、それはどんな人であっても探せばあらはきっと出る、長所を取り合ってお互いに面白く楽しむのが交・・・ 川上眉山 「書記官」
出典:青空文庫