・・・』 美術論から文学論から宗教論まで二人はかなり勝手にしゃべって、現今の文学者や画家の大家を手ひどく批評して十一時が打ったのに気が付かなかったのである。『まだいいさ。どうせ明日はだめでしょうから夜通し話したってかまわないさ。』 画・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・弟余を顧みて曰く、秀吉の時代、義経の時代、或は又た明治の初年に逢遇せざりしを恨みしは、一、二年前のことなりしも、今にしては実に当代現今に生れたりしを喜ぶ。後世少年吾等を羨むこと幾許ぞと。余、甚だ然りと答へ、ともに奮励して大いに為すあらんこと・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・遊んだところが杖突いて百年と昼も夜ものアジをやり甘い辛いがだんだん分ればおのずから灰汁もぬけ恋は側次第と目端が利き、軽い間に締りが附けば男振りも一段あがりて村様村様と楽な座敷をいとしがられしが八幡鐘を現今のように合乗り膝枕を色よしとする通町・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・あるいはまた単にその物が古いために現今稀有である、類品が少ないという考えに伴う愛着の念が主要な点になる事もある。この趣味に附帯して生ずる不純な趣味としては、かような珍品をどこからか掘出して来て人に誇るという傾向も見受けられる。この点において・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・かくのごとき場合にはいわゆる主要条件の選択が重要なるは既に述べたるがごとし。現今の物理学的気象学の立場より考えて、今日のいわゆる要素の数は大体において理論上主要の項を悉したりと考えらる。しかるに実用上の問題は如何なる程度までこれらの要素を実・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・然るに現今幾百を数える知名の画家殊に日本画家中で少なくも真剣にこういう努力をしている人が何人あるかという事は、考えてみると甚だ心細いような気がする。それで津田君のこの点に対する努力の結果が既にどこまで進んでいるかは別問題としても、そういう態・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ 鼎をかぶって失敗した仁和寺の法師の物語は傑作であるが、現今でも頭に合わぬイズムの鼎をかぶって踊って、見物人をあっと云わせたのはいいが、あとで困ったことになり、耳の鼻ももぎ取られて「からき命まうけて久しく病みゐる」人はいくらでもある。・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・ 現今物理学の研究問題は、分子、原子、エレクトロン、エネルギー素量となって、至るところに混乱系が跳梁している。プロバビリティの問題、エントロピーの時計の用途は存外に広いという事を思い出すに格好な時機ではあるまいか。 時。エントロピー・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・また現今の相対原理ではエーテルの存在を無意味にしてしまったようである。それで光と称する感覚は依然として存する間に光の本体に関しては今日に到るもなんらの確かな事は知られぬのである。それにも関らず光が一種のエネルギーであるという考えは少しも動か・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・しかし現今用いらるるような意味での科学はまだそれだけでは含まれていないと云ってもよい。 そういう根本的な問題はしばらく措いて、具体的に各種の文学の中に含まれている普通の意味での科学的要素の分布を考えてみよう。 あらゆる文学の中でも最・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
出典:青空文庫