・・・これまでの純文学の作家の日常生活が余り特殊な文壇的或は技術的範囲に限られていた結果、そういう作家の社会的生活の経験の貧困は作品の質の著しい低下、瑣末主義を惹起した。一方、この四五年間における社会情勢の激動はこれまで純文学の読者であった中間層・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・この傾向は、自然主義が日本に移植されてから、その社会的事情に従って次第に低俗な写実主義に陥って来ている文学の伝統と計らずも微妙な結合を遂げ、今日一部の作家に見られる些末的な、或は批判なき風俗小説を生むに至っている。散文精神という言葉はこれら・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ かかる有様で、プロレタリア文学運動の退潮後、文学論議は混迷しつづけて益々思弁の瑣末末技の穿鑿に走った。昭和九年の春創刊された『文学界』はこれらの夥しい合言葉の噴泉の如き観を呈し、河上、小林、保田与重郎の諸氏の歴史の方向からはなれた文学・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・それも、ごく些末なことについて。髪の形とか、顔の化粧とか、襷の色と幅とその結びかたについてとか。小さいことごとに、大きな重い感情がきつく示され、そのことでまで稚い心はいためられた。よしんば、そのことがわたし自身にかかわったことでなくても。・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・ リアリズムと云えば自然主義の系列の些末主義の範囲で規定して、そこからの脱出をロマンティシズムに見るような、今日の時代の性格へのかかわりあいかたにこそ、今日の文学の弱い部分があらわれているのだと思う。作家が、自己というものを百万人の一人・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・この時代、ソヴェト文学の消極面が、安易な些末主義に陥ったということは、むしろその一つ前の時代に旧い偶然性によって登場し、あるいは新しい社会への転換に伴う現象的影響で溌剌と亢奮を示した古い社会からの既成作家たちが、彼ら自身の習慣に戻ったのだ、・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ もちろんこのことも、漠然とした、そして瑣末的な実例について語られ結果はアイマイになっているのであるが、積極性に発展し得る小さいモメントをもわれわれはまめにとりあげ、勤労階級の文学的実践をとおして彼らのうちにいささかなりともある芽をひき・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ それならば、どうして刻々にその経験を片端から小説に纏めて行かなかったのかという疑問が起るのであるが、私はここにリアリズムというものが経験主義でもなし、日常瑣末な写実主義でもないという証明があると思う。 ある作家が、ただ実際はこうで・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・彼は一組の男女が人類的な奉仕のためにどんな努力をしようともしないで、一つの巣の中にからまりあって、安逸と些末な家事的習慣と慢性的な性生活をダラダラと送っている状態を堕落としておそれ憎んだ。そして本当の真面目な結婚生活というものがあり得るなら・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・真似したとすれば、彼の文章の調子の最も消極的であるところだけが瑣末的な精密さや、議論癖、大袈裟な形容詞、独り合点などだけが、大きいボロのような重さで模倣者の文章にのしかかり、饐えた悪臭を発するに過ぎないであろう。 バルザックの文体を含味・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫