・・・この二つの作品は、日本のすべての人々にとって忘却することのできない治安維持法と戦争のために犠牲とされた理性と善意のために捧げられる。生けると死せるとにかかわらず、この二つの悪虐な力によって破壊を蒙った人間性の恢復と未来の勝利のためにささげら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)」
・・・に腐心して、一歩一歩人民の真の必要から離れつつある政党の首領たちは、その一歩ごとに「生ける屍」となりつつある。〔一九四六年一月〕 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ だが、生活の実感、生ける姿というものはどういうものなのだろうか。 私はよく思うのだが、例えば、現代の日本の生活感情・文学の実感のなかで、今日現実に多くの人々が心に抱いて生きている思意的な感情というものは、どう生かされ描き出され人生・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・どのように織交りあっているものであるか、そして又芸術を知ろうとすればその当時の社会の有様を基礎としなければ、本当のことは何も分らないものであるということを、歴史家である著者は、精密に、しかも胸に訴える生ける姿として、描き出しているのである。・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・ そこまで考えるわけではなく、ただ品のよい稽古事というのであれば、やはりそこに私たちの生ける文化への感情として考えさせられる点が在る。何故なら、それらの若い娘さんたちは、働く健気な婦人たちだのに、まだその働きの性質が自分の肉体に強いてい・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・これらの声々は、ある点から見ればまことに悲痛な、今日の日本の文学における生ける人間の存在の消失に伴うつむじ風の唸りであり、作家と歴史とのめぐり合わせにおいてみれば「個人生活における一貫性」が砕けゆく過程の叫びであった。『現代文学論』の第・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ プロレタリア文学の新しい民主主義文学との生けるつながりが明らかとなるにつれ、新しい民主主義がすでにその前脚をかけている社会主義への道が明らかとなった。わたしたちの今日の創作方法として、いきなり社会主義的リアリズムだけをとりたてることは・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ こう考えて来ると、すべての作家たちは、これらの課題がつまりは全く根本的な文学そのものの生ける課題であって、その達成をめざして、めいめいにこれ迄も努力し、或は迷って来てもいたのだと思うしかないのだろうと思う。 国民の文学と呼ぶに足る・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・万物の造り主である活ける神は、人の工と巧とをもって石から造られる神とは違う。それは手で造った殿堂に住まない。また人の手で犠牲をささげられることを要せない。それは生命の根拠である。人間の造り主である。何で人間の手を借りる必要があるだろう。諸君・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・人形に動作を与え、そうして生ける人よりも一層よく生きた感じを作り出すためには、人間の動作の中からきわめて特徴的なものを選び取らなくてはならなかった。いかに人形使いの手先が器用であるからといって、人形に無限に多様な動きを与えることはできない。・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫