・・・その中には生木を割くような生別もあるのである。 いったん愛し合い結び合った者は一生離れず終わりを全うするのが美しく望ましいのはいうまでもない。この現実の世ではそうした人倫の「有終の美」は稀なだけにどんなに尊いかしれない。天智天皇と藤原鎌・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ところが、枕木は炭焼竈の生木のように、雪の中で点火されぷす/\燻りながら炭になってしまうのだった。雪の中で燻る枕木は外へは火も煙も立てなかった。上から見れば、それは一分の故障もない完全な線路であった。歩哨にも警戒隊にも分らなかった。而も、そ・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・稽古唄の文句によって、親の許さぬ色恋は悪い事であると知っていたので、初恋の若旦那とは生木を割く辛い目を見せられても、ただその当座泣いて暮して、そして自暴酒を飲む事を覚えた位のもの、別に天も怨まず人をも怨まず、やがて周囲から強られるがままに、・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・始めこの鳥籠を据える時に予は庭にあった李の木の五尺ばかりなのを生木のままで籠の中に植えさした。それは一つはとまり木にもなるしまた来年の春花がさいた時に、その花の中を鳥の飛ぶのが、如何にも綺麗であろうと思うたのであるが、小鳥どもはその木の葉を・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・地響を立てて横たわる古い、苔や寄生木のついた幹に払われて、共に倒れる小さい生木の裂ける悲鳴。 小枝の折れるパチパチいう音に混って、「南へよけろよーッ、南ー」 ドドーンとまたどこかで、かなり大きい一本が横たわる。 パカッカッ…・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫