・・・死んだ山本勝治には、階級闘争の中に生長した青年らしい新しさが幾分か作品の中に生かされようとしていた。 しかし、これらの作家によって、現在までに生産された文学は、単に量のみを問題としても、我国人口の大部分を占める巨大な農民層に比して、決し・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・ そして、一年、一年、あとから生長して来る彼女達の妹や従妹は、やはり町をさして出て行った。萎びた梨のように水々しさがなくなったり、脚がはれたりするのを恐れてはいられなかった。 若い男も、ぼつ/\出て行った。金を儲けようとして。華やか・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・それは、後の自然主義運動に於いて作家としての生長を示した徳田秋声の、この時の作品「通訳官」を見ても、また、小栗風葉の「決死兵」、広津柳浪の「天下一品」、泉鏡花の「外国軍事通信員」等を見ても、その水っぽさと、空想でこしらえあげたあとはかくすべ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・深く、父上母上の我が思いなしにやいたく老いたまいたる、祖母上のこの四五日前より中風とやらに罹りたまえりとて、身動きも得したまわず病蓐の上に苦しみいたまえるには、いよいよ心も心ならず驚き悲しみ、弟妹等の生長せるばかりにはやや嬉しき心地すれど、・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・、左れど実体の両面たる物質と勢力とが構成し仮現する千差万別・無量無限の個々の形体に至っては、常住なものは決してない、彼等既に始めが有る、必ず終りが無ければならぬ、形成されし者、必ず破壊されねばならぬ、生長する者、必ず衰亡せねばならぬ、厳密に・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・育ちの人達と同じように、わたしも草木なしにはいられない方だから、これまでいろいろなものを植えるには植えて見たが、日当りはわるく、風通しもよくなく、おまけに谷の底のようなこの町中では、どの草も思うように生長しない。そういう中で、わたしの好きな・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・あだかも春の雪に濡れて反って伸びる力を増す若草のように、生長ざかりの袖子は一層いきいきとした健康を恢復した。「まあ、よかった。」と言って、あたりを見みまわした時の袖子は何がなしに悲しい思いに打たれた。その悲しみは幼い日に別れを告げて・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・ここに生長がある。ここに発展の路がある。称して浪曼的完成、浪曼的秩序。これは、まったく新しい。鎖につながれたら、鎖のまま歩く。十字架に張りつけられたら、十字架のまま歩く。牢屋にいれられても、牢屋を破らず、牢屋のまま歩く。笑ってはいけない。私・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・私は北国の雪の上に舞い降り、君は南国の蜜柑畑に舞い降り、そうして、この少年たちは上野公園に舞い降りた、ただそれだけの違いなのだ、これからどんどん生長しても、少年たちよ、容貌には必ず無関心に、煙草を吸わず、お酒もおまつり以外には飲まず、そうし・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
・・・例えば植物の生長の模様、動物の心臓の鼓動、昆虫の羽の運動の仕方などがそうである。それよりも一層重要だと思うのは、万人の知っているべきはずの主要な工業経営の状況をフィルムで紹介する事である。動力工場の成り立ち、機関車、新聞紙、書籍、色刷挿画は・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫