・・・烏賊でも構わぬ。生麦の鰺、佳品である。 魚友は意気な兄哥で、お来さんが少し思召しがあるほどの男だが、鳶のように魚の腹を握まねばならない。その腸を二升瓶に貯える、生葱を刻んで捏ね、七色唐辛子を掻交ぜ、掻交ぜ、片襷で練上げた、東海の鯤鯨をも・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・富美子の生麦弁を「言葉の気魄」とかいたりすることへの皮肉な気分も書かれていて、それ等の反撥はいずれも同感をもって思いやられた。野生な自然な反撥があるのだが、同時に野沢富美子が、その反撥をバカな流行唄をジャンジャン歌うというような形でしか表現・・・ 宮本百合子 「『長女』について」
・・・「生麦事件」を書こうとも、ブルジョア作家十一谷義三郎をしてブルジョア的盛名を得させたと同時に堕落させた「お吉」を書こうとも、「天誅組」を書こうとも、取材を貫徹して、維新が、封建的地主絶対主義支配の門出であるという特性をわれらに示し、こんにち・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
出典:青空文庫