・・・いつかの昔の焼岳の噴火の産物がここまで流転して来たものと思われた。一時止んでいた小雨がまた思い出したようにこぼれて来て口にくわえた巻煙草を濡らした。 最後の隧道を抜けていよいよ上高地の関門をくぐったとき一番に自分の眼に映じた美しい見もの・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・命懸けの智恵の産物である。 これなども見れば見るだけ利口になる映画であろう。 二 ロス対マクラーニンの拳闘 この試合は十五回の立合の後までどちらも一度もよろけたり倒れかかるようなことはなかった。そうして十五回の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・これは監督苦心の産物かもしれないが、効果は遺憾ながらあまり上乗とは思われない。後日「モロッコ」を作る場合にはこの道化師までもみんないっしょに太鼓とラッパの音の中へたたき込んでしまったものと思われる。 俳諧連句については私はすでにしばしば・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・もっともこの中立地帯の産物はその地帯の両側にある二つの世界の住民から見るとあるいは廃頽的と見られあるいは不徹底とののしられるかもしれない。しかし、結局それはすむ世界の相違であり、生まれついた人種の差別である。議論にはならない。 世界じゅ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・ そう云えば近頃世上で大分もてはやされる色々の社会的の問題に関する弁論や主張や宣伝中の一、二パーセント、あるいは二、三十パーセント、事によるともっと意外に大きいパーセントがやはり一種のシッタシズムの産物ではあるまいかという疑いが起った。・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・ 自働電話の送信器の数字盤が廻るときのカチカチ鳴る音と自働連続機のピカピカと光る豆電燈の瞬きもやはり同じような考えを応用して出来た機構の産物であると見れば見られなくはないであろう。 このように、二千年前の骨董の塵の中にも現代最新の発・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・今ではたいていの田園の産物もデパートの陳列棚で見られるのであるが、それでもまだ楊梅や寒竹の筍は見られない。菱や色々の樹の実は土佐に限らぬものであろうが、しかしこれらの都会の食味の中に数えられないためか、どこでも手に入れることが出来ない。そう・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
植物学の上より見たるくだものでもなく、産物学の上より見たるくだものでもなく、ただ病牀で食うて見たくだものの味のよしあしをいうのである。間違うておる処は病人の舌の荒れておる故と見てくれたまえ。○くだものの字義 くだもの、という・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・俳人として第一流に位する蕪村の事業も、これを広く文学界の産物として見れば誠に規模の小なるに驚かずんばあらず。 蕪村は鬼貫句選の跋にて其角、嵐雪、素堂、去来、鬼貫を五子と称し、春泥集の序にて其角、嵐雪、素堂、鬼貫を四老と称す。中にも蕪村は・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
盛岡の産物のなかに、紫紺染というものがあります。 これは、紫紺という桔梗によく似た草の根を、灰で煮出して染めるのです。 南部の紫紺染は、昔は大へん名高いものだったそうですが、明治になってからは、西洋からやすいアニリ・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
出典:青空文庫