・・・勲章なら、すぐに十マルクは御用立てます。官立典物所なんぞへお持ちになったって、あそこではせいぜい六マルクしかよこしません。なかなかずるうございますから。」 ところがおれの受け取ったのは、勲章でもなければ、大臣の辞令でもない。例の襟である・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・を論じた珍しい論文が見つかったので先生に報告したら、それはおもしろいから見せろというので学校から借りて来て用立てた。それが「猫」の寒月君の講演になって現われている。高等学校時代に数学の得意であった先生は、こういうものを読んでもちゃんと理解す・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・ けど、私だってよそに来て居るのに、先の様に用立てて居る上に又、あんまりぽんぽん血の様な金をつかっても居られないじゃあありませんかい。 あれだって、私は一度だって、返して下さいなんて云った事はないじゃあありませんか。 そう云・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・下島は金の催促に来たのではないが、自分の用立てた金で買った刀の披露をするのに自分を招かぬのを不平に思って、わざと酒宴の最中に尋ねて来たのである。 下島は二言三言伊織と言い合っているうちに、とうとうこう云う事を言った。「刀は御奉公のために・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫