・・・文章の上からだけいっても社会科学の用語が、小説のなかの生きた言葉になりつつある。生活の現実と実感がそこまでひろがって来ている。 新版のマルクス=エンゲルス選集は、現代作家のだれだれのところに置かれるようになるだろうか。マルクス=エンゲル・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・雷についての世界の探究にふれて語られていて、平明な用語は私たちに親しみぶかくこの本に近づけさせる。 第六話。山、氷河、および地殻の歴史を語られるにつれて、私たちの心によみがえるのはチンダルの「アルプスの旅より」「アルプスの氷河」などであ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・しかし緊密であるというのは、歌のこころ、歌の世界がひしとうち出されてのことであって、格調を整える語彙というもの、用語法というもの、ましては型であってはつまりません。 短歌は日本の民族がもって来た文学のジャンルですから、それを破壊するより・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・紅葉山人が、用語の上に非常な苦心をもって、新らしい試をされたのだけでも氏の遺業は大なるものであると尊ぶのである。 一葉女史にしても、そのまれに見る才筆にはいかなる賛辞も惜しまないのである。 けれ共、今云った様な事を感じたのは、かくす・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・主として、用語の上に、この作者の微妙な内部的の複雑さが現れている。たとえば、作者は、「花」を「お花」といい「空」を「お空」といっている。何故「お」という敬語的な冠が空にいるのであろうか。空は空として芸術的にまったく美しい。そして、科学的の正・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・皮肉さで、いただかせていただくという、恐らく特殊な用語例の一つが使われているだけだ。そのような卑屈な念の入った言葉づかいを強制されるとしたら、それが既に精神的問題の何ものかであろうと私は感じた。真柄さんは獄中の事実を書く時、生来の陽気性と親・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・ これまで云いもしなかった社会部面について書くと、作家ABCは消滅して、啓蒙パンフレット屋がかく通りの用語、表現で作家が書きはじめるということは、過渡期のあらわれとしても、現代文学の明日への真実な成長のために、考えさせるところが少くない・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・だが、それらの用語は天から降る金の箭のように扱われ、古代・中世・近世日本の文学におけるそれらの基準の概括の背景と内容は説き明されない。かかる日本文学古典上の評価の規準の推移に関するまとまったものとしては寡聞にして僅に久松潜一氏の『日本文学評・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・が、力の欠乏を装飾する用語になるべきではございません。人類の愛に対する不真実を、哲学的偽瞞で被うのは卑屈でございます。 私は、現今、米国の女性の生活を非常な勢力で支配して居る此の傾向を打破って、真実な意味に於ての常套打破を期待して居るの・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・は日本訳もあって、多くの人々に愛読された作品であるが、その横溢的用語、色彩のつよい表現、強くて大きいリズム、叙事詩的形式などは、いかにも彼が南露のコサック生れであることを物語っている。同じ時代に発表されたロシア作家の作品でも、「赤色親衛隊」・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
出典:青空文庫