・・・このことは旧い用語での芸術至上の考えかたとは別である。 文学について、じっくりと生活に根ざし、痙攣的でない感覚と通念とがどんなに必要となっているかは、私たち皆の胆に銘じて来ていることだし、今日文学を読む千万人が感じている国民的真実の一つ・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・という観念とを直結した用語の方法のうちにこそ、一九五一年度の、日本人民の人権擁護の要石がむき出しにされている。幾百万の人々がよむ新聞で日ごと夜ごとに、「赤」という正に「言葉の魔術」を行い、平和のための行為までを犯罪めいたものと暗示すること自・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・ 観念的な用語の上では一見非常に手がこんでいるように見えて、内実は卑俗なものへの屈従であるような現実把握の芸術化の過程に於ける分裂は、その頃「癩」「獄」等によって作家としての活動を始めた島木健作の芸術にも独自な姿で反映している。 石・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そういう自然科学の一部門の用語である。「結婚の生態」と云うつなげかたも何か妙だが、そこにはその小説の作者が、結婚というごく社会的な内容の対象を、テーマの上では男の或る意味での平凡な旧套に立つエゴイスムの肯定として扱っている態度とどこか相通ず・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・そして、いまなお世界平和を語り、そのために努力をつづけようとしている者は、こんにちの世界で最もおくれて野蛮な用語の一つである「アカ」のやからだけであるという偏見が流布されるようになりはじめているのは、どういう理由だろう。アカという言葉を、戦・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・には、これまでの詩の華麗流麗な綾に代る人生行路難の暗喩がロマンティックな用語につつまれつつ、はっきり主体をあらわしている。「野路の梅」にも同じ傾きとして、浮薄な世間の毀誉褒貶を憤る心が沁み出ている。これは、『若菜集』によって、俄に盛名をあげ・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ミッション・プレス、その他切支丹関係の書類は、歴史的に興味深いばかりでなく、芥川氏が数篇の小説中に巧に活用し、その芸術的効果を高めているような一種独特な用語、文体で書かれているため、文学的な面白さも充分ある。「あるじぜすきりしと」「びるぜん・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・内容の範囲をひろげてつかわれているらしい伊藤整の衝動という用語をもって表現すれば、歴史に内包するこのような新しい文学への潜在的な衝動こそ、かえって多くの人間的欲求をもつ文学者の頭脳に反射作用し、逆に日本の知性への不信を表明させもしているのだ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・一億一心、八紘一宇、聖戦、大東亜共栄圏というような狂信的用語が至るところに溢れた。文学はこれらの言葉の下に埋没した。この緊迫した状態のもとで宮本の公判がはじまった。当時宮本は公判廷に出ても席に耐えないでベンチの上に横になる程疲労していた・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・などに対立せしめた意味の、哲学的用語ではない。むしろ「生」と同義にさえ解せられる所の、人生自然全体を包括した、我々の「対象の世界」の名である。それは我々の感覚に訴えるすべての要素を含むとともに、またその奥に活躍している「生」そのものをも含ん・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫