・・・この範囲の間に所沢、田無などいう駅がどんなに趣味が多いか……ことに夏の緑の深いころは。さて立川からは多摩川を限界として上丸辺まで下る。八王子はけっして武蔵野には入れられない。そして丸子から下目黒に返る。この範囲の間に布田、登戸、二子などのど・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・それでも田無町辺からは昔の街道の面影が保存されているらしい。いくつとなく踏切番のいない鉄路を横切るのは不安である。突然路が右へ曲ると途方もない広い新道が村山瀦水池のある丘陵の南麓へ向けて一直線に走っている。無論参謀本部の五万分一地図にはない・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ 自分を椅子にかけさせて置き、「一寸すみませんが田無を呼び出して下さい」と、特高に目の前で電話をつながせた。「ア、もしもし中川です。明日の朝早く細田民樹をひっぱっておいてくれませんか。え、そうです。細田は二人いるが、民樹の方・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫