・・・ 声も朗かに、且つ慎ましく、「竜神だと、女神ですか、男神ですか。」「さ、さ。」と老人は膝を刻んで、あたかもこの問を待構えたように、「その儀は、とかくに申しまするが、いかがか、いずれとも相分りませぬ。この公園のずッと奥に、真暗・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・わしは骸骨では無い。男神ジオニソスや女神ウェヌスの仲間で、霊魂の大御神がわしじゃ。わしの戦ぎは総て世の中の熟したものの周囲に夢のように動いておるのじゃ。其方もある夏の夕まぐれ、黄金色に輝く空気の中に、木の葉の一片が閃き落ちるのを見た時に、わ・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・日向にだけは、男神が甦生しても大して意外でない悠々さがある。 熊本は、寝て素通りしたから何も知らず、長崎へゆくと、更に人々の気持、自然の雰囲気が異なって来る。 そういう方面だけ思い出しても、九州の旅行は楽しく、たっぷりしたものであっ・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・二流、三流の通俗画家が、凡庸な構図とあり来りな解釈とで、神話の男神、アポロー、パンまたは、キリスト教の聖徒などを描いた他、或る女流画家の特殊な稟性によって、ユニクな属性を賦与された男子の肖像が在るだろうか。私は自分の狭い知識では不幸にして一・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫