・・・寒月の放胆無礙な画風は先人椿岳の衣鉢を承けたので、寒月の画を鑑賞するものは更に椿岳に遡るべきである。 椿岳の画の豪放洒脱にして伝統の画法を無視した偶像破壊は明治の初期の沈滞萎靡した画界の珍とする処だが、更にこの畸才を産んだ時代に遡って椿・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 古来邦画家は先人の画風を追従するにとどまって新機軸を出す人は誠に寥々たる晨星のごときものがあった。これらは皆知って疑わぬ人であったとも言われよう。疑って考えかつ自然について直接の師を求めた者にいたって始めて一新天地を開拓しているの観が・・・ 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・チャンバラ芝居は戦争後殆どその跡を断ったので殺伐残忍の画風は転じて現代劇に移ったものとも見られるであろう。 西洋近代の演劇は写実の芸風を専一にしているが、人が殺されたり撲たれたりするところは決して写実風ではない。また女を殺す場面は避けて・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ 宗達は能登の人、こまかい伝記はつまびらかでないが寛永年間に加賀侯に仕え、光琳によって大成された装飾的な画風を創めた画家である。と辞典に短かく書かれてある。 なるほど、小さい絵はがきに見るこの源氏物語図屏風にしろ、魅力をもって先ず私・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・素晴らしそうなのが沢山あり、特にバートンのアラビアンナイトの原版、小画風の插画のあるキング・アーサー物語の新版がひどく興味をそそった。日夏耿之介氏がアラビアンナイトを訳されると云う広告を見たこともおもい出し、黒衣聖母のうしろを見たら、バート・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・先輩の手法を模倣して年々その画風を変えるごとき不見識に陥らず、謙虚な自然の弟子として着実に努力せられんことを望む。 ――例外の一と二とに現われた二つの道が日本画を救い得るかどうか。それは未来にかかった興味ある問題である。・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫