・・・明日の晩お敏に逢えなけりゃ、すべての計画が画餅になる訣だろう。そう思ったら、僕はもう、神にも仏にも見放されたような心もちがしてね。お敏に別れてここへ来るまでの間も、まるで足は地に着いていないような心もちだった。」――新蔵はこう委細を話し終る・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・実は自分は梅子嬢を貰いたいと兼ねて思っていたのであるから、井下伯に頼んで梅子嬢だけ滞めて置いて後から交渉して貰う積りでいた、然るに先生の突然の帰国でその計画も画餅になったが残念でならぬ。自分は容貌の上のみで梅子嬢を思うているのでない、御存知・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・しかしそれは画餅になった。おれはとうとう包みと一しょに寝た。十二キロメエトル歩いたあとだからおれは随分くたびれていて、すぐ寝入った。そうすると間もなく戸を叩くものがある。戸口から手が覗く。袖の金線でボオイだということが分かる。その手は包みを・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
出典:青空文庫