・・・彼等は地主的或はブルジョア的イデオロギーの持主ではあったが、しかし、決してブルジョア乃至は愛国主義の番犬ではなかった。トルストイは見習士官としてセバストポールの戦争に参加したが、ガルシンも露土戦争に参加した。アンドレエフは日露戦争に加ってい・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・自己保存の本能なら、馬車馬にも番犬にもある。けれども、こんな日常倫理のうえの判り切った出鱈目を、知らぬ顔して踏襲して行くのが、また世の中のなつかしいところ、血気にはやってばかな真似をするなよ、と同宿のサラリイマンが私をいさめた。いや、と私は・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・羊の群れを守る番犬がぐるぐる駆け回って、列を離れようとする羊を追い込むような様子があった。今になって考えてみるとあれはやはり輪郭線や色彩が逃げよう逃げようとするのを見張っていたのだと思われた。こういうふうにやらなければならないとなるとなかな・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・時々新聞でよい番犬の広告を見たり、犬好きの従弟の話をきいたりすると、それでも種々の空想が湧いた。一匹欲しいと思う。自分が飼ったら、注意深く放任して、決していやにこまちゃくれた芸は仕込むまいと云う私の持論を喋ることもあった。人間が人間らしくな・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
出典:青空文庫