・・・ 当時遊里の周囲は、浅草公園に向う南側千束町三丁目を除いて、その他の三方にはむかしのままの水田や竹藪や古池などが残っていたので、わたくしは二番目狂言の舞台で見馴れた書割、または「はや悲し吉原いでゝ麦ばたけ。」とか、「吉原へ矢先そろへて案・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・一番目は「酒井の太鼓」で、栄升の左衛門、雷蔵の善三郎と家康、蝶昇の茶坊主と馬場、高麗三郎の鳥居、芝三松の梅ヶ枝などが重立ったものであった。道具の汚いのと、役者の絶句と、演芸中に舞台裏で大道具の釘を打つ音が台辞を邪魔することなぞは、他では余り・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・「西から三番目の畝だ、おめえが大きいのを抱えた時ちゃらんと音がしたっけが其時は気がつかなかったがあれに相違ねえぞ、こっそり行って探して見ろ」 太十が復た眠に就いたと思う頃其一人は三番目の畝を志して蜀黍の垣根をそっと破ってはいった。他・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・二番目のはずいぶんふるった道楽ものだった。唐棧の着物なんか着て芸者買いやら吉原通いにさんざん使ってこれも死んだ。三番目のが今、無事で牛込にいる。しかし馬場下の家にではない。馬場下の家は他人の所有になってから久しいものだ。 僕はこんなずぼ・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・三番目のにも仁王はいなかった。自分は積んである薪を片っ端から彫って見たが、どれもこれも仁王を蔵しているのはなかった。ついに明治の木にはとうてい仁王は埋っていないものだと悟った。それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った。第七夜・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・それから例の鉄の棒を持ち直して、二番目のあま蛙の緑青いろの頭をこつんとたたいて云いました。「おいおい。起きるんだよ。勘定だ勘定だ。」「キーイ、キーイ、クワァ、ううい。もう一杯お呉れ。」「何をねぼけてんだよ。起きるんだよ。目をさま・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子に座った人の所へ行っておじぎをしました。その人はしばらく棚をさがしてから、「これだけ拾って行けるかね。」と云いながら、一枚の紙切れを渡しました。ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ 子福者小笠原伯爵の何番目かの娘さんが最近スポーツマンであった体躯肥大な某氏と結婚された写真が出ていた。月給は七十円だけれども、豪壮な新邸に住まわれるそうである。一寸名のあるスポーツマンになるといいぜ、就職が楽だぜ。そういう功利的通念は・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
久し振りで女優劇を観る。 番組に一通り目を通しただけでも、いつもながら目先の変化に苦心してある様子が窺われる。一番目「恋の信玄」から始って、チェーホフの喜劇「犬」に至る迄、背景として取入れられている外国の名を列挙したば・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・母は五人姉妹の下から二番目で、四人もあるその伯母たちの子供らが、これがまたそれぞれ沢山いた。一番上の大伯母は、この村から三里も離れた城のある上野という町にいたが、どういうものだか、この美しい伯母にだけは、親戚たちの誰もが頭が上らなかった。色・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫