・・・ 一つには、小説と映画では相手にする大衆の素質、顧客の層序において若干の異同のあることも事実であろう。しかしそれよりも大切なことは、映画の写し出す視覚的影像の喚起する実感の強度が、文字の描き出す心像のそれに比較して著しく強いという事実が・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ これに聯関して思い合わされることは、人の容貌の肖似ということについての人々の考えの異同である。例えば、甲某の眼にはA某とB某とが、よく似ているように見える。 ところが、乙某に云わせると、ちっとも似ていないじゃないかと云う。これは甲・・・ 寺田寅彦 「観点と距離」
・・・さらにおもしろいことは、その特別な週期が各人の身体の構造の異同で少しずつちがい、それが結局は各個人の、腰掛けた位置に相当する固有振動週期を示すものらしいということである。 このおもしろい研究の結果を聞かされたときに、ふと妙な空想が天の一・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・人により、時によりこれの見え方に異同のあるのも事実らしい。 これは眼底網膜の一部が偏光で照らされた時に生じる主観的生理的現象である。「幽霊」などと似たところもあるが、それよりはもう少し普遍的な存在である。 これとは全く縁のないことで・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・この場合は明らかに墨のコロイド粒子群が内から外へ進行する際にその進行速度にはなはだしい異同ができ、その異同が助長されるのであろうが、この事実の形式的類推から放電陽像の場合にも、何物か粗粒的なものが内から外のほうへ広がるのではないかという想像・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・かくのごとき差別が偶然的局部的の異同に支配さるるとせば、広区域にわたるマクロスコピックの平均状態を知るのみにては信憑すべき実用的の予報は不可能に近し。 上記のごとき地殻の弱点が一箇所に止まらず、多数に分布されいる場合には更に困難なり。こ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・それで、太陽黒点と関係のあるらしい週期的な気象学的あるいは気候学的現象の異同が自然に干支と同じような週期性を示すことがしばしば起こりうるわけである。たとえばある特定の地方である「水の兄」の年に偶然水害があった場合に、それから十一年後の「水の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 火山の爆音の異常伝播については大森博士の調査以来藤原博士の理論的研究をはじめとして内外学者の詳しい研究がいろいろあるが、しかし、こんなに火山に近い小区域で、こんなに音の強度に異同のあるのはむしろ意外に思われた。ここにも未来の学者に残さ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・しかるに実際上は、避くべからざる雑多の複雑な偶然的原因のために、この一定であるべき間隔に少しずつの異同を生じ、理想的にはたとえばTであるべき間隔が T+ΔT となる。この ΔT がどういう順序に相次いで起こるかということもやはりまた一種の「・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・それが死んだねずみであるか石塊であるかを弁別する事には少なくもその長さの十分一すなわち〇・五ミクロン程度の尺度で測られるような形態の異同を判断することが必要であると思われる。しかるに〇・五ミクロンはもはや黄色光波の波長と同程度で、網膜の細胞・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
出典:青空文庫