・・・ 一つ確かに覚えているのは、レンブラント画集の立派なのが他の二、三の画集と並んで本箱に立ててあった事で、これだけが荒涼な室の中に著しい異彩を放っていた。それからもう一つ、描きかけの自画像で八号か十号くらいだったかと思う。一体に青味の勝っ・・・ 寺田寅彦 「中村彝氏の追憶」
・・・様性はそれを生じた地殻運動のためにも、また地質の相違による二次的原因からも、きわめて複雑な地形の分布、水陸の交錯を生み出した、その上にこうした土地に固有な火山現象の頻出がさらにいっそうその変化に特有な異彩を添えたようである。 複雑な地形・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・「あの下女は異彩を放ってるね」と碌さんが云うと、圭さんは平気な顔をして、「そうさ」と何の苦もなく答えたが、「単純でいい女だ」とあとへ、持って来て、木に竹を接いだようにつけた。「剛健な趣味がありゃしないか」「うん。実際田舎・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・しかれども洒堂のこれらの句は元禄の俳句中に一種の異彩を放つのみならず、その品格よりいうも鳩吹、刈株の句のごときは決して芭蕉の下にあらず。芭蕉がこの特異のところを賞揚せずして、かえってこれを排斥せんとしたるを見れば、彼はその複雑的美を解せざり・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫