・・・「この小倅は異相をしている。」 鬼上官は二言と云わずに枕の石を蹴はずした。が、不思議にもその童児は頭を土へ落すどころか、石のあった空間を枕にしたなり、不相変静かに寝入っている!「いよいよこの小倅は唯者ではない。」 清正は香染・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・言い換えれば、異質異相の境界面の存在しない所には生命は存在し得られないのである。ところが、そういう境界面があるということは一方において「可視」ということと密接に結びつけられている。少しのチンダル効果さえ示さない全く不可視な固体コロイドは考え・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・謙介は成長してから父に似た異相の男になったが、後日安東益斎と名のって、東金、千葉の二箇所で医業をして、かたわら漢学を教えているうちに、持ち前の肝積のために、千葉で自殺した。年は二十八であった。墓は千葉町大日寺にある。 浦賀へ米艦が来・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫