・・・ 同僚の顔を見れば、皆ひどく疲れた容貌をしている。大抵下顎が弛んで垂れて、顔が心持長くなっているのである。室内の湿った空気が濃くなって、頭を圧すように感ぜられる。今のように特別に暑くなった時でなくても、執務時間がやや進んでから、便所に行・・・ 森鴎外 「あそび」
これは小さい子供を持った寡婦がその子供を寐入らせたり、また老いて疲れた親を持った孝行者がその親を寝入らせたりするのにちょうどよい話である。途中でやめずにゆっくり話さなくてはいけない。初めは本当の事のように活溌な調子で話すが・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・書くときには疲れないが書けないときにはひどく疲れてへとへとになるのも、このときである。 これは作家の生活を中心とした見方の一例にまで書くのであるが、『春琴抄』という谷崎氏の作品を読むときでも、私も人々のいうごとく立派な作品だと一応は感心・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・その時フィンクは疲れて過敏になった耳に種々雑多な雑音を聞いた。そしてその雑音を聞き定めようとしている。なんだかそれが自分に対してよそよそしい、自分に敵する物の物音らしく思われる。どうも大勢の人が段々自分の身に近寄って来はしないかというような・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・後者は自己を鼓舞し激励するとともに、多くの悩み疲れた同胞を鼓舞し激励します。 あなたに愚痴をこぼしたあとでこんな事をいうのは少しおかしいかも知れません。しかし私はあなたに愚痴をこぼしている内に自然こういう事を言いたい気持ちになって来たの・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫