・・・だものは、歴史家である著者がこの大芸術家の識見を正しくつたえつつ、自身の芸術に対する良識と感性によって、おのずから今日の芸術が、特に今一度とりあげて考え直さねばならない芸術上の諸課題にも触れているのを痛感するであろう。例えば題材とテーマとの・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・ 詩の事につき、又他の書くものにつきゆうべも話したが、私たちはまだ縦横自在ではないことを痛感し、もっとオク面なくなって、しかも正当な焦点をもつようになりたいと頻りに話したことです。小説を書くについても新しい現実の内容が豊富複雑錯雑して居・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・と云って急に瑣末描写と受動性のお守りにつかおうとするようなのがいやで、腰をすえて、そのバルザックの矛盾の研究をかいているのですが、書いているうちに、やはりバルザックは巨大な、生々しい大作家であることを痛感して居ります。作家の仕事をする度胸の・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・らもしっかりやってゆくでしょうが、私はこの二三年の間に両親をそれぞれ特別な事情の下で失って、感銘深いものがありますが、しかし、良人を失ったということは、その悲しみの性質において全く別のものであることを痛感しました。全く別のもの、全くその感覚・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・、沈着にその落着かなさに当面し、自分たちの結婚をもただ数の上での一単位としてばかり見ず、明日に向ってよりましな社会を育ててゆくべき人間として、質の上からの一単位として自覚し、生活してゆくことの意義を、痛感しはじめていると思う。こういう時代で・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・対談の作家たちが、もしこの現実の他面では自分たちがどんな貧弱な読者として置かれているかということを痛感していたなら、恐らくあの調子は変らざるを得なかったのだろうと思う。〔一九四一年二月〕・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・と幾多執筆された文学についての評論とは、その相互的関係において眺めて、やはり、今日この種の作家のおかれている条件の主観的客観的のむずかしさが痛感せしめられる。 本年の後半に入って、これまで描写のうしろにねてはいられないと、独特の話術をも・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・その色の好きな人は、あるいは好きな間は、その色が見えるというだけで喜びを感じるであろうが、その色のきらいな人、あるいは飽きてきた人は、その色がありのままの物の姿を見るのにひどく邪魔になることを痛感させられる。それを感じはじめると、どの色とい・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・ これらのことを思うとき、それぞれの文化産物が、それに固有な様式の理解のもとに鑑賞されねばならぬことを痛感する。街路樹もそれぞれに様式を持っている。城のごときモニュメンタルな営造物は一層そうである。人はそれぞれの時代的、風土的な特殊の様・・・ 和辻哲郎 「城」
・・・造形において眼がそういう役目を持っていることは、フロベニウスに言わせると、南フランスの洞窟の動物画以来のことであって、なにも埴輪人形に限ったことではないのであるが、しかし埴輪人形において特にこのことを痛感せしめられるということも、軽く見るわ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫