・・・人に迫るものがあって、カンカン明るく点けておいた筈の洋燈の灯が、ジュウジュウと音を立てて暗くなって来た、私はその音に不図何心なく眼が覚めて、一寸寝返りをして横を見ると、呀と吃驚した、自分の直ぐ枕許に、痩躯な膝を台洋燈の傍に出して、黙って座っ・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・ 痩躯、一本の孟宗竹、蓬髪、ぼうぼうの鬚、血の気なき、白紙に似たる頬、糸よりも細き十指、さらさら、竹の騒ぐが如き音たてて立ち、あわれや、その声、老鴉の如くに嗄れていた。「紳士、ならびに、淑女諸君。私もまた、幸福クラブの誕生を、最もよ・・・ 太宰治 「喝采」
・・・鏡に写った自分のすぐ隣の椅子に、半白で痩躯の老人が収まっている。よく見ると、歌舞伎俳優で有名なIR氏である。鏡の中のI氏は、実物の筆者のほうを時々じろりじろりとながめていた。舞台で見る若さとちがって、やはりもうかなり老人という感じがする。自・・・ 寺田寅彦 「試験管」
出典:青空文庫