・・・神経衰弱か何かの療法に脊柱に沿うて冷水を注ぐのがあったようであるが、自分の場合は背筋のまん中に沿うて四五寸の幅の帯状区域を寒気にさらして、その中に点々と週期的な暑さの集注点をこしらえるという複雑な方法を取ったわけである。そういう、西洋のえら・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ わざわざ医者にかかるほどでもないちょっとしたできものを診てもらって適当な療法を教わったり、また病気であるかないか分らないようなからだの工合を話して意見を聞くようなことが、あたかも鉛筆一本、ハンケチ一枚買うように気軽に出来れば便利である・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・また医学の方でも物理的療法という言葉が出来て、その方の専門家もあるくらいである。また近年目ざましい進歩をしたいわゆる航空術などもやはり応用物理学の一つと云って差支えはあるまい。 以上に述べたとは少しく異なった殖産事業の方面においても、将・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・しかし同時にその弱さの素因がいくらか科学的につきとめられて従ってその療法の見当がつくとすれば、それはまたこの上もない心強い喜ばしい事である。 実際自分のようなものでも、健康のぐあいがよくて精力の満ちているような場合に、このような変則な笑・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・其頃はすべての病が殆ど皆自然療法であった。枳の実で閉塞した鼻孔を穿ったということは其当時では思いつきの軽便な方法であった。果物のうちで不恰好なものといったら凡そ其骨のような枳の如きものはあるまい。其枳の為に救われたということで最初から彼の普・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・をもってするのみならず、患者の平生に持張して徐々に用うべき肝油・鉄剤をも、その処方を改めて鎮痛即効の物にかえんとするときは、強壮滋潤の目的を達すること能わずして、かえって鎮痛療法の過激なるに失し、全体の生力を損ずることあるべし。 ゆえに・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・一八七四年からはカルルスバードの温泉療法が試みられた。温泉はいくらか利いた。けれども、そのとき、愛するイエニーが弱りはじめた。苦痛の多い経過の長い癌と闘わなければならなかった。六十六歳のイエニーは、もう稀にしか起きられなくなった。いとしい「・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・生の果物でもあれは赤痢の新療法に使用される位有益です。よくかんで一日に二箇ぐらい召上れ。胃腸がよわっていてもリンゴは特別です。それに、もし胃腸がうけつけたら鉄とカルシューム補給のため、バタと鰯、鮭の類、カン油なども是非あがった方がよい。私は・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・十二指腸から胆汁をとる療法だがこのゾンドなるものをかけられる時は一種悲しき芸当の感じだ。フセワロード・イワノフが曲芸師であった時嚥んだ剣より工合がわるい。イワノフの剣はバネで三分の一ずつ縮んだ。このゴム管は本当に腸まで嚥み下さなければならぬ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ある友達が私のしびれている脚に電気療法をしながら、その男兄弟が、「どうもこの頃は弱るよ。転向なんぞした奴だからというのを口実に、執筆をことわる人間ができて来て……」といって述懐したという話をした。そのときも、私はさまざまな意味で動的・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫