・・・で、往来の人は長々見わすれていた黄金の王子はどうしていられる事かとふりあおぎますと、おどろくまい事かすき通るほど光ってござった王子はまるで癩病やみのように真黒で、目は両方ともひたとつぶれてござらっしゃります。「なんだこのぶざまは、町のま・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・ まさかに気があろうなどとは、怪我にも思うのじゃございますまいが、串戯をいわれるばかりでも、癩病の呼吸を吹懸けられますように、あの女も弱り切っておりましたそうですが。 つい事の起ります少し前でございました、沢井様の裏庭に夕顔の花が咲・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・その煙の奥の方から本郷の方へと陸続と避難して来る人々の中には顔も両手も癩病患者のように火膨れのしたのを左右二人で肩に凭らせ引きずるようにして連れて来るのがある。そうかと思うとまた反対に向うへ行く人々の中には写真機を下げて遠足にでも行くような・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・五に癩病などの悪き疾あれば去る。六に多言にて慎なく物いひ過すは、親類とも中悪く成り家乱るゝ物なれば去べし。七には物を盗心有るを去る。此七去は皆聖人の教也。女は一度嫁して其家を出されては仮令二度富貴なる夫に嫁すとも、女の道に違て大なる辱なり。・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・それが消えると、癩病の、頬のふくれた、眼を剥いだような、気味の悪い顔が出た。試にその顔の恰好をいうと、文学者のギボンの顔を飴細工でこしらえてその顔の内側から息を入れてふくらました、というような具合だ。忽ち火が三つになった。 何か出るであ・・・ 正岡子規 「ランプの影」
・・・五に癩病などの悪き病あらば去る。六に多言にて慎なく物いい過すは親類とも中悪く成り家乱るる物なれば去るべし。七には物を盗む心有るは去る。此七去は皆聖人の教也。」 聖人というのは支那の儒教の聖人のことなのだが、女の生涯は、この七箇条を見たば・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
出典:青空文庫