・・・とののしって来た人が、きょう民主主義の立場に立つ特定の作家に悪評を加えようとするときには、全く、誤って理解された政治の優位性の発動による非現実的であり、非文学的でもある評言の断片か、ききづたえかを、そのまま自分の文章の中にとってよりどころと・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・スーザンにしろ、マークと結婚し、ブレークとの結合に入り、そして、これらの男たちと同じ時代、同じ社会の歴史を閲しつつあるとすれば彼女としても性格が抽象に発動するのではなくて、彼女の生活の属している社会層の特徴や限界や歴史性をも私というもののう・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・どこかでおのずからその本質が旧来のものの肯定に立っているのは感じられるのであるから、あらア石川さんと、婦人雑誌の口絵にかたまって覗きこみながら、作者の生きかたというようなものに、文学的に高められた心が発動するというようなきっかけは刺戟される・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・の主人公が死と闘う意志の強烈さに於て讚えられたのであったが、観念的なものであるにしろ、そのような意志の自主的な発動に対する能動的要求は、今日の文学にどのように在り得ているであろうか。 本年度の特徴は、一方に素朴な形で文学の政論化が行われ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 科学は理性の主動するもの、芸術文学は感情、感覚が主として発動するものという簡単な区分の方法は、今日科学者の理解からも文学者の理解からも、もう少し複雑に、所謂科学的に高められて来ている。ファブルなどの時代では、文学に於ても十分問題である・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・人間の裡に在るべき叡智のよりよき、より自由なる発動の為に、飛翔の為に、其の機会を多数に、多種に拡張し保護する権能が要求されるのでございます。私共は其の道程にのみ終始するべきではございません。使用すべき権能に使用されてはなりません。如何程鋭利・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・然し、人間の主観的な感情の鏡によって、自然の姿が悲喜さまざまに観られ感受されると同時に、そのような各人の感情の発動する根源には、そのひとの住む自然が環境的な影響として力強く作用しているのである。 例えば、同じヨーロッパの中でもスペインや・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・さて怒が生じたところで、それをあらわに発動させずに、口小言を言って拗ねている。 こう云う状態が二三日続いた時、文吉は九郎右衛門に言った。「若檀那の御様子はどうも変じゃございませんか」文吉は宇平の事を、いつか若檀那と云うことになっていた。・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ たとえば青春期に著しい恋愛の憧憬や性慾の発動には、それを刺激し強める種類の滋養は必要でありません。なぜなら、そういう種類の滋養はわざわざ与えるまでもなく、日常の生活にありあまるほどあるからです。街を歩く。そこに美しい女がいます。その流・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・のであって、取りかえしのつかない実践的な人格の発動としての「言う」行為なのではない。人が笑いながら「殺すぞ、と言ってみせた」としても、相手は殺意などを感じはしない。しかるに藤村は、作中の人物がまじめに相手に対して言葉によって働きかけている場・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫