・・・その門の翼がパァラーで主人Sの話し声がし、右手ではK女史のア、ア、ア、ア、という発声練習が響いているという工合。家全体は異様に大時代で、目を瞠らせる。そして道を距てた前に民芸館と称する、同スタイルの大建築がまるで戦国時代の城のように建ちかけ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・彼独特の発声法で、中間派作家とその作品を罵倒しながら、最後には、ひいきの尾崎一雄を、その「『アミ』がいくらか古めかしく」純粋になってしまって現代生活の流れに浮いた「アクタモクタの全部は尾崎のアミに引っかからなくなっている」という不平はとなえ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・その沢山の物売りが独特な発声法で、ハムやコーヒー牛乳という混成物を売り廻る後に立って、赤帽は、晴やかな太陽に赤い帽子を燦めかせたまま、まるで列車の発着に関係ない見物人の一人のように、狭い窓から行われる食物の取引を眺めている。両手を丸めた背中・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・ 例えば、同じヨーロッパの中でもスペインやイタリー、ギリシャのような南方の諸国の自然と、ドイツ、ロシアなどのような北方の国々とでは、気候によって咲く花が違い空の色がちがうように、言語の発声法が異り、人々の気質がちがって来ている。ナポリの・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・そのままピアノが鳴り出せば、ほっとして発声の練習に入るのであったが、さもないときは、焦立たしさを仄めかした眉目の表情と声の抑揚とで、その生徒の名がよばれ、その髪はもうすこし何とかならないんですか、といわれるのであった。 二人の生徒のその・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・例えば、発声法や体操などで見ても、不自然な芝居声の要求され、とったりがいる芝居の伝統と、私たちのいう新しい芝居とはちがうのであるから。 又、俳優の演技を小さくしていることと、舞台の狭く小さいこととは、切り離せない関係にあって、新協がこの・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
・・・広津桃子にしても、関村つる子にしても、人間としての女の自然な発声に立っている。 ささやかなように見えるこの前進は、重大な歴史の一歩である。なぜならば、婦人作家が、もう日本に独特な女心の人形ぶりをすることをやめたという事実は、それらの婦人・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
出典:青空文庫