・・・僕のではない、他の中隊の一卒で、からだは、大けかったけど、智慧がまわりかねた奴であったさかい、いつも人に馬鹿にされとったんが『伏せ』の命令で発砲した時、急に飛び起きて片足立ちになり、『あ、やられた! もう、死ぬ! 死ぬ!』て泣き出し、またば・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・いきなり、その幹のかげの男に向って発砲しよう。愚劣な男は死ぬがよい。それにきまった。私はどさんと、ぶっ倒れるようにベッドに寝ころがった。おやすみなさい、コンスタンチェ。 あくる日、二人の女は、陰鬱な灰色の空の下に小さく寄り添って歩いてい・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・に請願のため行列して行った民衆は、冬宮を背にして並んだ兵士の発砲によって千数百の労働者がたおれた。その前、ゴーリキイはこの労働者に対する射撃を防ごうとして他の同志とともにウイッテと会い、熱心に談判したがきき入れられなかった。ツァーの砲火の下・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・川を渡ったり、杉の密集している急な崖をよじ登ったりして、父の発砲する音を聞いていたが、氷の張りつめた小川を跳び越すとき、私は足を踏み辷らして、氷の中へ落ち込み、父から襟首を持って引き上げられた。それから二度と父はもう私をつれて行ってはくれな・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫