・・・くりかえしたいと思っていないならば、そして、時間がなくて、ものを考えるどころじゃないわよ、というこんにちの若い主婦の苦悩をくりかえしたくないのならば、若い世代は自分で自分の運命の主人になって働ける道を発見しなくてはなりません。人生の風波の間・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・勿論発見も発明も出来るならしようとは思うが、それを生活の目的だとは思わない。始終何か更にしたい事、する筈の事があるように思っている。しかしそのしたい事、する筈の事はなんだか分からない。或時は何物かが幻影の如くに浮んでも、捕捉することの出来な・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・此の潜める生来の彼の高貴な稟性は、終に彼の文学から我が文学史上に於て曾て何者も現し得なかった智的感覚を初めて高く光耀させ得た事実をわれわれは発見する。かくしてそれは、清少納言の官能的表徴よりも遥に優れた象徴的感覚表徴となって現れた。それは彼・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・そこを散歩して、己は小さい丘の上に、樅の木で囲まれた低い小屋のあるのを発見した。木立が、何か秘密を掩い蔽すような工合に小屋に迫っている。木の枝を押し分けると、赤い窓帷を掛けた窓硝子が見える。 家の棟に烏が一羽止まっている。馴らしてあるも・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ちょうどインド航路が打開され、アメリカが発見されて、ポルトガル人やスペイン人の征服の手が急にのび始めたころである。 北条早雲の成功の原因は、戦争のうまかったことにもあるかもしれぬが、主として政治が良かったことにあるといわれている。特に政・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫