・・・吉弥は初めて年増にふさわしい発言をして自分自身の膳にもどり、猪口を拾って、「おッ母さん一杯お駄賃に頂戴よ」「さア、僕が注いでやろう」と、僕は手近の銚子を出した。「それでも」と、お袋は三味を横へおろして、「よく覚えているだけ感・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・談ずる処は多くは実務に縁の遠い無用の空想であって、シカモ発言したら々として尽きないから対手になっていたら際限がない。沼南のような多忙な政治家が日に接踵する地方の有志家を撃退すると同じコツで我々閑人を遇するは決して無理はない。ブツクサいうもの・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・私は日本文壇のために一人悲憤したり、一人憂うという顔をしたり、文壇を指導したり、文壇に発言力を持つことを誇ったり、毒舌をきかせて痛快がったり、他人の棚下しでめしを食ったり、することは好まぬし、関西に一人ぽっちで住んで文壇とはなれている方が心・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・とか「姦淫するなかれ」とか発言することができずに、「汝の意欲の準則が普遍的法則たり得るように行為せよ」とか、「汝の現在の態度について、汝自身に忠実であり得るように態度をとれ」とかいい得るのみである。すなわち人間のあらゆる積極的な意欲はことご・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・この世の中で、その発言に権威を持つためには、まず、つつましい一般市井人の家を営み、その日常生活の形式に於いて、無慾。人から、うしろ指一本さされない態の、意志に拠るチャッカリ性。あたりまえの、世間の戒律を、叡智に拠って厳守し、そうして、そのと・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・生命を賭しても発言せざる可し。然るに日本人は之を口外して平気なりと言う。当人の知らぬことゝは言いながら羞かしきことならずや。尚お此外にも今の世間に見苦しく聞き苦しきことは一にして足らず。畢竟婦人の罪とのみ言う可らず、社会の先達たる学者教育家・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・饗礼は鄭重にして謝すべきに似たれども、何分にも主人の身こそ気の毒なる有様なれば、賓主の礼儀において陽に発言せざるも、陰に冷笑して軽侮の念を生ずることならん。労して功なく費やして益なきものというべし。されば今我が日本国が文明の諸外国に対して、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・自分たちの心や感情にある習慣の一部が旧いということがわかってきたと同時に、親たち、兄たち、または夫、そういうこれまで特に女の人の生活に対して多くの発言権をもっていた人たちの考え方の中には、もっとそれより根強いふるさがのこっていることもわかっ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・言論の自由が民主的発言にたいしても、百パーセントの実効をあたえているだろうか。減刑運動という名のもとに、日本のまちがった民族主義の思想がふたたびうごめき出し、戦争挑発が拡大するような事態を許すならば、わたしたち人民の譲歩は、度をこしている。・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・を思い出させることで、わたしの現在での活動や発言を牽制する効果を期待するとすれば、それは不可能である。 あの評論にふくまれている誤謬は、プロレタリア文学の戦線拡大に対する政治的態度の未熟さと、そこからひきおこされた文学に対するピューリタ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
出典:青空文庫