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・・・ 自分はまず黒白斑の牛と赤牛との二頭を牽出す。彼ら無心の毛族も何らか感ずるところあると見え、残る牛も出る牛もいっせいに声を限りと叫び出した。その騒々しさは又自から牽手の心を興奮させる。自分は二頭の牝牛を引いて門を出た。腹部まで水に浸され・・・
伊藤左千夫
「水害雑録」
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・・・光りの消えた砂浜を小急ぎに、父を真中にやって来ると、白斑の犬が一匹船の横から出て来た。「こい、こい」 晴子が手を出すと、尾を振りながら跟いて来た。「何だお前の名は――ポチか? え?」 そして、父が短い口笛で愛想した。「ポ・・・
宮本百合子
「海浜一日」