・・・が、その眉間の白毫や青紺色の目を知っているものには確かに祇園精舎にいる釈迦如来に違いなかったからである。 釈迦如来は勿論三界六道の教主、十方最勝、光明無礙、億々衆生平等引導の能化である。けれどもその何ものたるかは尼提の知っているところで・・・ 芥川竜之介 「尼提」
・・・空はその上にうすい暗みを帯びた藍色にすんで、星が大きく明らかに白毫のように輝いている。槍が岳とちょうど反対の側には月がまだ残っていた。七日ばかりの月で黄色い光がさびしかった。あたりはしんとしている。死のしずけさという思いが起ってくる。石をふ・・・ 芥川竜之介 「槍が岳に登った記」
・・・二人はそれを伏し拝んで、かすかな燈火の明りにすかして、地蔵尊の額を見た。白毫の右左に、鏨で彫ったような十文字の疵があざやかに見えた。 ―――――――――――― 二人の子供が話を三郎に立聞きせられて、その晩恐ろしい夢を・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫